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週末なので、DQウォークでもやろうとスマホと睨めっこしていると、こんな記事を発見しました。
あ~あ、刑事訴訟にまで話が広がっちゃいましたか。
この事件は、今年の夏に公開されたドラクエ映画「ユア・ストーリー」で使われた主人公の名前「リュカ」が、小説版のそれと同一であることから、小説の著作者である久美沙織氏が、映画制作者側を訴えたものです。
早い話が、
「私の小説で使った主人公の名前を、無断で映画で利用するとはナニゴトか」
というもの。
この事案については、既に映画公開と同時に民事訴訟が提起されており、現在も係争中とのこと。ちなみに、民事事件についての考察記事はこちら。
正直、民事訴訟の内容をざっと見る限りでは、そんなにこじれることもないかな、と思ってました。
前回の記事でも述べましたが、この事案は、法的権利侵害について鋭利な争点があるというわけではなく、専らクリエイターとしての「ありかた」を巡る争いという(ある意味、情緒的な)側面が強いですからね。
僕がこの事件を知ったときも、「温めの妥協案でも提示して和解にでも持ち込むんじゃないかな」と軽く考えていたんですが・・そうでもなかったようです。
では、なぜ今回、久美氏はこの事件につき刑事告訴にまで踏み切ったのでしょう。
ちょっとだけ思うところを書いておこうと思います。
- 1 やはり民事事件の訴えの法律構成が甘かったか?
- 2 そこで不正競争防止法の出番
- 3 リュカという名前が映画の「表示」といえるか?
- 4 他にも詐欺や背任などの主張もあるが・・
- 5 もちろんクリエイターとしての問題点は別途検討すべき
1 やはり民事事件の訴えの法律構成が甘かったか?
久美氏は、民事事件において、主に①名誉棄損に基づく名誉回復請求、②同一性保持権侵害を主張しているようです。
しかし、リュカという名前は著作物ではないため、この名前を使ったという理由だけで著作権侵害を争うのは極めて難しいです。しかも、上記の訴えについては以下のような問題があります。
① 何をもって久美氏の名誉棄損というのか説明が困難
② 映画の差止めを望んでいない人間がこんなことを主張する利益があるのか疑問
などなど。少なくとも僕は、こんな印象を持ちました。
推測ですが、久美氏もこのままでは戦いづらいと思ったのでしょう。
もっと明確でわかりやすい法的主張が欲しいところです。
2 そこで不正競争防止法の出番
民事訴訟で久美氏が戦いづらいのは、著作権を主な根拠にしているからです。
そこで、新たな主張を追加しようと思ったんですね。不正競争防止法違反です。
※僕は、不正競争防止法についてあまり詳しくないので、以下のサイトを参考文献にさせていただいてます。
久美氏の主張をざっくりいうと、映画等の制作者側は、同法2条1項1号の「不正競争」をしているから刑事罰の対象になる、ということのようです。
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
条文からもわかるように、「不正競争」を主張するためには、「他人の商品等表示」を無断で使用すればよく、その表現が著作物である必要はないわけです。
つまり、久美氏としては、主人公の名前「リュカ」を「ユア・ストーリー」に使うと、自分の小説の映画化と誤認するおそれがあるから、そんな商売は不正競争にあたるぞ、といいたいのでしょう。
3 リュカという名前が映画の「表示」といえるか?
ただ、この久美氏の主張には、若干違和感があります。
僕がこう思うということは、法的にも争点になり得るということ。
つまり、主人公の名前が「リュカ」というだけで、本当に一般人がユア・ストーリーから久美氏の小説を想起するか、ということです。そういう想起ができなければ、消費者の誤認も生じないわけだから、「不正競争」ともいえなくなりますからね。
もちろん、久美氏の小説をよく知っている人は、ユア・ストーリーを観て、「あ、あの小説と同じだ」と思うでしょう。
久美氏もこの点を強調しておられるようです。詳細は冒頭のリンク先記事に同氏の主張が掲載されていますので、参考にしてみてください。
しかしここでの問題は、社会一般から見て、「リュカ」の名前がユア・ストーリーの「表示」として機能しているかです。
例えば、一般人を基準にして「映画を選ぶとき主人公の名前なんか気にしない」といえるならば、映画等の制作者は「リュカ」を「表示」として使用しているわけではないから、不正競争をしているといいづらくなります。
不正競争防止法に関する主張については、他にも争点があるかもしれませんが、少なくとも僕が気になったのはそんなところです。
4 他にも詐欺や背任などの主張もあるが・・
僕は今回の主な争点は、不正競争の有無ではないかと思っています。
他にも詐欺や背任を根拠に刑事告訴がなされているようですが、正直、詐欺や背任とまでいえるかは・・まあ、事実関係をよく把握していないので、これくらいにしておきます。
5 もちろんクリエイターとしての問題点は別途検討すべき
そんなわけで、今回もざっくりと久美氏の主張を法的にみてみました。
僕の正直な印象としては、少なくとも今回の事情だけでみると、久美氏の主張は法的に若干弱いかも。
しかしスクエニ側が正しいかというと、そうでもない。
今回だって、もともとは久美氏に無断で主人公の名前を「リュカ」にするなんて軽率なことをするからこんな騒動になったようですしね。
やはり今回の事案は、法的な問題とは別に、クリエイターとしてのスクエニ側の「雑な」面が垣間見えた出来事だったと思いますよ。
だから主人公の名前は、無難に「トンヌラ」あたりにすればよかったのに・・。
それでは、また。