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さて、ドラクエ映画であるユア・ストーリーを公開して間もない時期にショッキングな話題が飛び込んできましたね。
今回の映画で、ドラクエⅤ小説版の名前を勝手に使われたということで、著者の久美沙織さんが、制作委員会を相手取り訴訟を提起した模様です。
事実の概要や、訴状の骨子は公開されていますね。
ネット上では久美さんへの同情の声が目立ちます。
僕は、遺憾ながら小説版のドラクエを読んだことがなく、久美沙織の存在も知らなかったのですが、ネット上でのコメントを見てみると、久美さんの小説は高い社会的評価を受けていることがうかがえますね。
久美氏のコメントや訴状の内容を眺めてみると、同氏が映画製作者側のクリエイターとしての姿勢を批判していることがわかります。
つまり
「私が小説で作り上げてきたキャラクターネーム「リュカ」に対する社会的影響力を無断で利用しておいて、自分をのけ者にするとは何事か!」
というもの。
これに対して映画製作者側(スクエニの代理人)の態度をザックリまとめると
「『リュカ』という名前は著作物ではないし、映画制作にあたっては小説の創作部分(ストーリーなど)は一切利用してないもん。何か貴方に権利侵害があるわけ?」
という感じですね。
たしかに映画製作者がいうように、単なる名前が使われたという事実のみでは、著作権侵害で久美氏が戦っていくのは難しいでしょう。
しかし、久美氏がいうように映画制作者側のクリエーターとしての姿勢に問題は残りますね。
つまり、「こんなことが許されるなら、たとえば『ホイミ』や『やくそう』という名称を他のRPGで使っていいことになるけど、そんなことしたらスクエニさん、気分悪いでしょ?貴方たちも同じことやってるんですよ?」という意見もそれなりに説得力があります。
久美氏は、そんな映画製作者側の姿勢に対し納得しきれなかったんでしょう。上記のとおり訴訟を起こしました。ちなみに本人訴訟です。
ここでちょっと訴えた内容を見てみましょう。
請求の主な内容は以下のとおり。
① 名誉回復措置請求
おそらく民法723条を根拠とするものでしょう。
第723条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
ただ、この請求が認められるためには、名誉棄損、つまり映画製作者側が久美氏の社会的な評価を下げたといえるような事実が必要です。
今回、映画製作の経緯にあたってそのような事実があったのかは、正直、久美氏のコメントを見る限りではよくわかりません。リュカという名前を使ったにもかかわらず自分が「のけ者」にされたという事実は、久美氏の主観的な名誉感情は傷つける可能性はありますが、これにより社会的評価がどう下がるのかは結構な説明が必要でしょう。
② 同一性保持権侵害に基づく防止措置等の請求
もっとも、久美氏本人も単なる名誉権だけでは戦えないと思っていた模様で、同一件保持権侵害も併せて主張しているようです。著作権法に規定されている権利ですね
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- 第20条
- 1 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
条文からも分かるように、この請求が認められるには、映画制作者側が久美氏の著作物を改変したという事実が必要です。
もっとも前述のとおり、リュカという名前は著作物にならないので、久美氏は別の表現部分に目を付けた模様です。
つまり、小説内で使用されている「リュケイロム~」のセリフは、久美氏自身の創作であり、これを映画内で不当に改変したという主張です。
たしかに同一性保持権侵害に持っていけば、法的な防止措置等を請求できますからね。
第120条
1 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
とはいえ、久美氏自身はこの映画の上映を差止めたいとまでは思っていないようですし、「リュカ・エル~」のセリフを直させたいとまで思っているわけでもない様子。
今回の問題の主眼はリュカという名前を勝手に使われたという点ですから、この請求自体にそれほどの意味はないはずです。
おそらくこの同一性保持権云々は、権利侵害性を裁判所に認めさせるため(今回の訴えに訴訟要件があるというため)に便宜的に請求原因に組み込んだのでしょう。
今回の訴えの内容を見る限り、久美氏に法的な権利侵害があったのかは、正直よくわかりません。ぶっちゃけていうと、ちょっと無理スジではないかと思われる内容もなくはないです。
しかしそもそも久美氏自身の本来の目的は、この裁判で勝訴することではなくて、訴えを通して映画制作者側の問題点を世に提示することのはず。
本気で勝訴するつもりなら、「争い事が不得手」という久美氏が本人訴訟をするのは考えにくいですからね。
そして映画公開にあわせて訴えを提起することで、ドラクエ映画と自らの小説が社会的にリンクして意識される効果も狙っていると思われます。
久美氏もこんなコメントを残していますし。
勝っても負けても、もし、判例集に「リュカ事件」とか「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア事件」として収録されとしたらちょっといいな、とも思います。
小説の創作部分を使っていないのをいいことに、久美氏に対して冷淡な態度をとったスクエニ。今回の訴えは、「仮に形式的な著作権侵害はなくとも戦える手段はある。私の小説の影響力をバカにするな」というメッセージなのかもしれません。
この事件を通して、ユア・ストーリーに不信感を持った人は一定数確実に増えたでしょうし、僕もこの機会に、久美氏の小説を読んでみようかなと思いました。
今回の久美氏の訴えは、少なくともその限りにおいて一定の成果があったといえるでしょう。
ちなみに、後日なされた刑事告訴についての記事はこちら。
それでは、また。