この記事は以下の記事の続編です。
今回のテーマは、「株式会社設立と利用規約」。
このシリーズ3部作の最終回となります。
前回の記事で、広告掲載ブログでドラクエⅩの画像を利用して、結果的にアフィの利益を得たとしても、利用規約に反しないはずだ、という見解を述べました(あくまで個人的な見解ですけど)。
しかし、前回はあくまで個人としてそのような行為をした場合の話です。
もし、そのブロガーが節税目的等で法人、具体的には株式会社を設立した場合、同じように規約に反しないと解されるのでしょうか。
今回のテーマは、場合によっては特定のブロガーに対しての「あてつけ」のようにも読めてしまうため、正直、書くのをためらっていました。
しかし、ドラクエ画像をテーマにした記事といえば、この問題は避けて通れません。やはりこういう問題は、一度争点整理をしておいたほうが、いたずらな議論上の混乱が避けられるのではないか、と考えたのです。
そんなちょっとした知的な使命感(?)に駆られ、勇気を出してPCの前に向かうことにしました。
なお、この記事の作成にあたって、特定のブロガーを支持・非難する意図は全くありません。あくまで争点整理として中立を心掛けたつもりです。
万が一、この記事がどちらかに偏っていると読めてしまった場合には、ひとえに僕の表現不足のせいであるである点、予めご了承ください。
この問題については、①利用規約における「個人」の解釈と、②「何らかの利益を得るため」の解釈を分けて考える必要があります。前者が利用の範囲(客観)の問題であり、後者が利用の目的(主観)問題ですね。これをごちゃごちゃに考えると正しい解釈ができません。
例えば、よく「営利目的だから私的(個人)使用じゃない」という主張がありますが、少なくとも著作権法上はそんな解釈はありません。個人利用かどうかはあくまで利用の規模の問題であって、利用者の利用目的とは次元が違う話だからです。
利用規約違反説、許容説いずれに立つにしても、自分がどの次元の解釈をしているのかを整理することは大事なこと。今回の記事もその整理の一助になればと思っています。
1 著作権との関係
(1)問題の所在
ドラクエⅩのブログ等での画像の使用に関しては、運営より以下のような規約が提示されています(以下「画像等の利用規約」といいます)。
画像などの取り扱いについて
「ドラゴンクエストX」における・・すべての表現物は、当社を含む・・権利者による著作物であり、事前の許可なく複製や頒布をすることはできません。ただし、以下の場合については、インターネット上での掲載にご使用いただくことができます。(以下略)。
- 「ドラゴンクエストX」の画像を個人使用の目的でオンラインサービスで使用すること。
- (略)
つまり、ブログ個人使用の目的で画像を使う限りは、著作権違反にはならないよ、ということを規定しているのです。
では、そのブロガーが株式会社として法人化してもその理は通るのでしょうか?
(2)規約違反説
法人化したらもはや「個人」にはあたらないので、規約に違反しているという説です。内容についてはちょっと長い説明が必要なので、項目を分けてみていきましょう。
① まず著作権法30条をみてみる
そもそも、画像等の利用規約の趣旨は、著作物の利用を個人のレベルにとどめ、著作権の侵害を不当に拡大させないところにあると解されます(と勝手に思っています)。
おそらくこの規定は、著作権法30条を参考にしたものでしょう。
第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、・・、その使用する者が複製することができる。
つまり、著作権法でも私的使用の場合には、複製が容認されているのです。著作権法30条の趣旨は、著作物の利用者の便宜と著作権者保護のバランスをはかったものであり、今回の画像等の利用規約と通じるところがあります。
この趣旨からすると、法人化して著作物を使用する場合には、私的使用とはレベルが異なるのだから、画像等の利用規約における「個人」にあたらない、と解釈できるのです。
② 旧商法における「一人会社」の議論
これに対して、1人のブロガーが株式会社を設立したところで、個人と変わらないではないか、という反論が当然あるでしょう。
しかし、少なくとも商法上はそうとも限りません。
旧商法で、構成員が1人しかいない株式会社なんて認めていいのかという議論がありました。いわゆる一人会社の議論ですが、この論点では、1人であっても会社として認める説が通説であり、現在の会社法では一人会社を認めることにほぼ争いはありません。
その理由が今回のテーマでも参考になるので見てみましょう。肯定説の理由は以下のとおり。
「構成員が1人であっても株式譲渡などで複数になる可能性があり、潜在的な社団性が認められる。」
つまり、いったん株式会社を設立したら、やりようによっていつでも構成員を増やせるから、設立時に1人でも問題ないよ、ということですね。
③ 結論
この考えを今回のテーマで応用してみると、
「株式会社を設立したということは、構成員をいつでも増やせる体制を整えたのだから、そんな人間に著作物利用を認めるのは著作権者にとって危険だし、著作権法30条の趣旨に反する。」
↓
「そうだとすると画像等の利用規約の『個人』と同視すべきではない」
という解釈が成り立ちうることになります
(3)許容説
仮にブロガーが株式会社化しても、実態を見れば個人のブログ活動と変わらないのだから、規約違反だと解釈すべきではないという説です。
そもそも規約違反かどうかは、運営側の政策的判断の問題であり、著作権法や会社法の議論が直接当てはまるものではありません。
むしろこの問題は、対象となる行為の性質を具体的に見て判断すべきである、という解釈も十分成り立ちうるのです。
この基準で今回のケースを検討してみましょう。
まず、ブロガーが節税目的で株式会社化したとしても、その普段の活動を具体的に見ると日常的な生活をブログで記録しているにすぎず、個人のブログ活動と何ら変わりはないといえます。
そうすると、このような行為を許容しても、著作権者であるスクエニ等に特段の不利益はなく、法的に見てもそれほど不都合ではないと考えられます。上記①及び②に対応させて検討してみましょう。
① 著作権法30条について
ブロガーの株式会社化は、節税目的で行っているにすぎず、実際の事業内容をみても、画像の利用が個人使用の域を出ることはまず考えられません。
そうだとすると、法人であっても個人使用に準じた扱いをすべきであり、このように解しても、著作権者を保護する著作権法30条の趣旨に反することはないといえます。
② 一人会社の議論について
たしかに抽象的にみれば、株式会社は構成員を拡大する可能性があります。しかしこれも実質的に見れば、節税目的の株式会社化の場合、活動が拡大することが考えづらいため、会社が設立後に構成員を増やすことはほとんど考えられません。
このような場合にまで一人会社の議論を持ちだすべきではないと考えれば、より許容説に近づくことになります。
③ 結論
このように、著作権法や商法の問題を言ったん切り離し、実質的側面を重視すると、利用規約違反とはならず許容すべきという解釈ができるのです。
2 利用規約第8条(3)との関係
(1)問題の所在
仮に、株式会社化したブロガーが「個人」にあたらないとしても、利用規約8条の(3)が問題になります。
第8条 禁止事項
本サービスを利用するにあたり、ユーザーによる以下の行為は禁止されています
(3) | 本サービス内又は本サービス外で何らかの利益を得るために、本サービスを利用する行為 |
つまり、上記の項目1で肯定説をとって著作権法上はセーフだと解釈しても、この規定に当てはまり、やはり規約上は違反しているのではないかという点が問題になるのです。
(2)規約違反説
そもそも広告掲載をしているブログで画像利用すること自体、規約違反だと解釈すれば、今回の場合も当然違反となりますが、僕は純粋な個人利用目的の場合には規約違反にはならないと考えていますので(上記の過去記事参照)、今回はこの解釈の説明は割愛します。
今回の規約違反説は、純粋な個人利用目的の広告掲載ブログでの画像利用はいいけど、そのブロガーが株式会社になったらだめだぞ、という考えです。
前回の記事で述べたように、利用規約8条の(3)の趣旨は、いわゆる「業者」を駆逐しゲームサービス内に不当な経済活動が入り込まないようにする点にあると解されます。
(※この規定が「ドラクエ画像を使って利益を得る行為一切を禁じている」とまで広く解釈するのは、個人的には疑問です。上記の過去記事でも述べた通り、個人のアフィブログを全否定するのは、あまりに現状にそぐわないからです。その意味で僕は、この規定の趣旨をやや「狭め」に解釈しています。)
そして、純粋な個人のブログでの画像利用の場合には、①商法上の「営利」にはならない、②これを禁止するとブログ活動を不当に制限し、画像使用を許容した画像等の利用規約の趣旨を没却する、などの理由で許容されると解釈しました。
しかし、株式会社化すると①と②の理由が使えなくなる恐れがあります。つまり・・
①について
株式会社化すると、その行為は原則的に営利目的を持った商行為になる(会社法5条参照)ので、単純な個人のブログ活動とは同一視できない。
②について
株式会社化するブロガーなどめったに存在せず、このような行為を規制したところでブログ活動に対する不当な制限にならない。
・・と考えられるのです。
むしろ、ドラクエⅩのプレイで利益を得ている会社の存在により、ゲーム内に不当な経済活動が介入しているという疑惑をもたれるのは、運営にとってRMTと同等の不利益であるという点を強調するなら、株式会社化は違反行為と解釈できますね。
(3)許容説
上記の画像等の利用規約の問題と同様、行為の実態に着目して株式会社化は許容されるという考えです。
この説は、規約で明確に禁止しているRMT業者との違いを強調することになります。
つまり、RMT業者がはびこると、外部の現金のやりとりによりプレーヤーの装備やレベルを上げる等ができてしまいます。そうすると利用料金以外の現金によってプレーヤー間の有利不利が生じてしまうわけです。これでは実際のゲームの世界に支障が出ます。
しかし、ブログ活動をしている人間が株式会社化したところで、そのような不利益は一切生じません。
また、ブログで金もうけをしている会社に不快感を持つ人間がいたとしても、それは個人的な思想の好き嫌いにすぎず、このような不快感はRMT業者によって生じるような具体的な不利益とは同視できない、ともいえます。
以上が許容説として考えられる理由です。
一見すると結果オーライの考えのようにも見えますが、株式会社化を禁止すると、じゃあなぜ個人のアフィ行為はいいの?という面倒な問題が生じてしまいかねません。そんな混乱を避けられるというのは、許容説のメリットなのかもしれません。
3 第三者としての作法
以上のように、この問題は規約違反説と許容説に分かれますが、違反・許容にかかわらず、第三者が当該ブロガーにどのような態度をとるべきかは別問題です。
違反行為の疑いを生じさせた以上、断固として声を上げるべきともいえるでしょう。
実際に不利益を受けていない人間が、安易に他人を糾弾すべきでないともいえるでしょう。
どちらが正解か、なんてありません。
むしろこの問題は、僕のようなにわかドラクエファンよりも、よりドラクエを愛し、ゲームに関する知識や造詣も深い皆さんの方が豊かな判断材料をお持ちでしょう。
今回は、そんな皆さんの判断のお手伝いとして、問題点を俎上に載せたにすぎません。僕は、理屈の整理屋にはなれても判断権者にはなれないのです。
この記事が、何かのお役に立てますように。
最後に、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました<m(__)m>