*この記事はVer.4.0 メインストーリーのネタバレを含みます。
Ver.4.0で、主人公はエテーネ王に死刑判決を食らいます。幸いメレアーデたちの尽力により命はとりとめましたが、この事件はリアルの刑罰論を考えるうえで興味深い素材でもあると思っています。
〇司法機関の欠如
このストーリーで主人公は、ヨンゲの研究室からエテーネ王が研究員に寄生獣を錬金するよう指示し、国中を混乱に陥れることを画策したとされる内容の指針書を発見します。これを知った王子クォードは、エテーネ王を告発し退位の要求をしました。
これに対し、王はそのような事実はない、むしろ主人公が指針書を偽造して現王政に対するクーデターを企んでいたと反論。
その根拠は、①自分の持っている指針書には寄生獣の錬金を指示する旨の記載はない、②王の持つ指針書の内容とどこの馬の骨だかわからない外国人の持ってきた指針書の内容とでは、前者の方が証拠力が高いのは明らか→したがって主人公の指針書は偽造したものである、というものです。
これにより主人公は、指針書偽造と内乱扇動の罪でエテーネ王から死刑判決をくらいます。
まあ、ゲームの中の話とはいえ、むちゃくちゃな判決です。
まず、事実認定がデタラメ。今回出てきた証拠のみでは、基本的に主人公とエテーネ王が別内容の指針書を持っている、という事実しか推認できないはずです。仮にどちらかの指針書が偽造されたものであったとしても、主人公が行ったという証拠はどこにもない。もしかしたらヨンゲが偽造したかもしれません。さらにいうなら、指針書を記述している張本人であるエテーネ王の方が、能力的に見て内容を改竄しうる立場にあるともいえるのです(もっとも、指針書の名義人であるエテーネ王が内容を改ざんしたとしても、刑法上の偽造にはなりません、念のため)。
もっとも、なぜこのようなデタラメな事実認定により刑の執行が可能なのかというと、やはり王とは独立した法執行機関である裁判所がないからだといえます。裁判所に訴えて死刑判決を求めるならば、エテーネ王とはいえど相応の証拠と主張を集めなくてはなりません。その場合、今回の王の主張など当然採用されるはずもなく、主人公は冤罪で死刑判決をくらうこともないわけです。もちろんゲーム内の話だから大して気にしなくてもいいともいえるのですが、このように見ていけば三権分立の大切さが分かるのではないでしょうか。
〇刑罰規定の適用時の問題点
エテーネ王国には今まで死刑制度がなかったようです。しかし、これでは凶悪犯罪から国を守れない、という理由で、主人公らの刑罰執行当日になっていきなり死刑制度の開始を宣言します。
この話、サラッと聞いただけではあまり違和感がないかもしれませんが、現代の刑法論からすると、大問題です。刑罰の根拠となる法律は、犯罪の行為時に法定されていなくてはならないという罪刑法定主義に真っ向から反するからです。ちなみに罪刑法定主義は日本のみならず、まともな刑法を持っている先進国では当たり前に通用している大原則です。
そんなこと気にするなんて細かすぎる、と思いますか?
でも、もしドラクエのストーリー内に、不当に差別的な内容があるなどの問題があったら、少なくとも不快に思う人が大勢出てくるでしょう。それに対して、三権分立や罪刑法定主義を無視するストーリーに「気持ち悪さ」を感じる人が少ないとすれば、その違いは何なんだろう、と思ってしまいます。どちらも一般人の生活に影響する重大な問題のはずなんですがね・・。
〇死刑のあり方
大げさなタイトルのようですが、実はこのストーリーは死刑問題の問題点を如実に表しているともいえます。バディンドのような極悪人が野放しになるくらいなら当人を殺した方がよい、という考えを強調すると、今度は正しい人間であるはずの主人公が冤罪で殺される危険が出るというジレンマが発生するのです。
よく死刑の問題は、「極悪人を生かすべきか殺すべきか」という視点で述べられます。この視点で見ると、そんな人間を生かすと社会的に危険だし、被害者・遺族も救われない、ということで死刑賛成の方向に傾く人が多いと思います。実際僕も死刑反対とまで考えられないのはこの理由があるからです。
ただ、死刑問題は別の視点からも考えられます。事実認定は、全くの第三者が証拠と主張のみで行います。犯行の真実について正解の映像などありません。どんなに真実究明に一生懸命になったとしても、やはりその事実認定は想像にすぎないという脆さがあるんですね。「その脆い事実認定を根拠に赤の他人を殺せるか」という重要な問題があるのです。この視点から見ると、死刑に慎重な人の気持ちもわかる気がします。
今回のストーリーだって、主人公が悪いことをしていないという正解の映像があるから、無罪なんて当たり前だと思えますけど、裁判での証拠や主張の仕方によっては、主人公のような人間は死んだ方がいい、と思わされるかもしれないのです。
バディンドは殺したいけど主人公は殺したくない。そんな区別を赤の他人である刑法や刑罰の執行者たちが100%間違いなくできるのか、と思うと、一部の人が考えているほど死刑の問題は簡単ではないと思うんですよね。
なんだかドラクエのブログらしくないですが、今回のストーリーはそんなことを考えるきっかけになりました。